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この物語は、江戸時代を舞台に、運命に翻弄されながらも、希望を捨てずに生きる人々の姿を描いたお話です。願い、夢、秘密を抱えながら、運命と向き合い、愛、勇気を通じて、奇跡を紡ぎ出していきます。
登場人物
武田真介
若き奉行。公正さと強い正義感を持ち、藩の安泰を願う。
新之助と武田真介は、同一人物。
新之助
お初の方の秘密の恋人。義理と人情に厚い浪人。
武田真介と新之助は、同一人物。
千代姫
武田真介の妹。美しく、賢く、兄の強い味方。
新井団十郎
奉行の側近。江戸の平和を守るため、日夜奔走する。
お初の方
佐倉藩の姫。武田真介との結婚が決まっているが、他に心を寄せる人がいる。
藤間良江
老女、著名な舞踊家で村の知恵袋。千代姫とは特別な縁があり、彼女に人生の教訓と舞の技を伝える。過去に多くの試練を乗り越えてきたため、若者たちにとっての良き相談相手となっている。
柳生鉄心
武田真介の幼なじみで最強の剣士。藩の安全と真介を守ることに生きがいを感じる。
山崎老翁
経験豊富な退役武士。若い世代に武士道を伝える。
見香呼(みかこ)
占い師。水晶玉を使って未来を予見する、ある秘密を抱えている。
白川勝之助
賢者で占星術師、真介の助言者。星の伝承を知る数少ない人物の一人。見香呼(みかこ)の師匠。
さくら
不思議な力を持つ花売りの少女。物語の重要な鍵を握る。
お澄
さくらと共に花を売る老女。過去の冒険家で、さくらに人生の教訓を伝える。
阿部久兵衛
有力な商人。藩の経済を牽引し、自らの地位を確立しようと野心を抱く。
中村直之介
若き学者。藩の未来について深く思索し、新たな政策を提案する。
ルナ
見香呼の相棒であるポメラニアン。見香呼の占いに不可欠な存在で、彼女の精神的な支え。
竜王丸
柳生鉄心の忠実な秋田犬。無敵と謳われる程の勇敢な面をもつ、しかし、子供たちと遊ぶ優しい一面もある。多くの戦いを共にし、鉄心の命を救った。
第一話 武田邸にて
物語の幕開けは、壮麗で静かな武田邸から始まります。公正さと強い正義感を持つ若き奉行、武田真介、彼の美しく賢い妹、千代姫、そして忠義深い家老、新井団十郎の絆と冒険を中心に展開します。ある朝、武田邸で、真介は刀の手入れをしています。刀は父から受け継ぎ、彼にとって正義を守る象徴です。千代姫は慎ましく茶を準備しており、団十郎は書斎で藩に関する報告書に目を通しています。
「真介殿、刀の具合は、いかがなものか?」
「じぃか、どうだろう。この刀は、私が手に入れてから、もう10余年も経つが、汚れ一つない。刀職人の腕の良さが分かる。うん、、、。」
「真介殿、私こと新井団十郎、真介殿の、おととさま、おかかさまに、大切にしてもらった恩がございます。故に、真介殿の、おととさま、おかかさまに義理を果たすべく。もし、真介殿に、もし、万が一のことがあったら、私こと新井団十郎、真介殿の、おととさま、おかかさまの遺影に、お天道様が見ています、顔向けができなくなってしまいます。」
「じぃ、そこまで思い詰めることはない。心配御無用。それより、じぃの体の具合の方が、私は心配だ。」
「真介殿、誠に、うれしゅうございます。真介殿は、おととさま、おかかさまの、ご寵愛を受けてお育ちになられました。なんて気優しく育ったことでしょう。じぃは、感動いたしております。」
「くるしゅうない。じぃ、その、おととさま、おかかさまだけは、どうにかならないのか??」
「そのことは、真介殿が、お生まれになって、すぐに7歩、お歩きになられた、その時から、おととさま、おかかさまと、呼ぶようになりました。今さら、変えることなど、至極、無理でございます。」
「じぃ、分かった、分かった、もうよい。」
そこへ、妹君の千代姫が近づいて来た。
「お二人とも、お茶を入れました。どうぞ。」
真介とじぃは、一服することにしました。
妹君の千代姫が、兄の真介に、いつものように話しかけました。
「真介兄さんが、旗本から町奉行の職を任せられたのは、よろこばしいことなのだけれども、お兄さんは、新之助という名前で町中を出歩いている。町を浪人として、しかも、別の名前で行動している。いかがなものか?おやめになられたらどうですか?」
「千代、気にすることはない。私こと真介が、別の名前で町中を出歩いても、さほど、問題なことはない。かえって、新之助という人物で行動するのも、結構、愉快なものだ。あっはっはっはっ、、、。」
真介は、お茶を一気に飲み干して、大笑いした。
「もーっ、お兄さま、何も分かってない。じぃも、一言、おっしゃってくださいよ。」
「じぃとしては、真介殿が職務を全うしているのであれは、少しくらいのヨコゴトは、大目に見たいと考えております。」
じぃは、一つ咳をして、お茶を飲まずに報告書に目を移した。
「じぃも、お兄さまと、協定を結んでいるのね。分かったわ。勝手にしたらいいんだわ。新之助として行動していて、ひどいめに合っても、千代は、もう知りません。」
千代は、一切、お茶を口にしないで、横を向いてしまった。
場の空気が、少し、気まずくなってしまった。真介が新たに話を切り出す。
「じぃ、占い師の見香呼という女、どう思う?」
「じぃは、やはり、察するところ、何か重要な秘密を抱えているように感じます。占いでも星を使うというもの、占星術というものらしいのですが。単なる、おなごの、お遊びと見るには、、、。その見香呼の占星術が、大きな力を生み出すのではと、じぃは、考えています、、、。」
「じぃも、そう思うのか、、、。私も、見香呼という占星術師の力に、興味がある、、、。」
真介は、先程、手入れをしていた刀の方に視線を移した。
「千代、千代は、どう考える、、、?見香呼について?」
「知りません。知りませんわ。きっと、綺麗な女性なんでしょ。お兄さまの鼻の下が伸びていて、良かったですね。そういう人の、お話が、できて、、、。」
千代姫は、さっきのこともあって、ご機嫌がよろしくない。
「真介殿、見香呼という女、危険な様子がいたします。お近づきにならない方が、よろしいかと、、、。」
「分かった。私も、そう思う。事がないのであれば、余り寄りつかない方がよいみたいだな。」
庭の方から、爽やかな風が、座敷に入ってきた。真介は、刀の置いてある方を見て、何事もなければ良いのだがと、心の中で、そうつぶやいた。